ユニバーサルデザイン7原則の非対称

メモ

これは実験記事です。
内容自体は自分自身で考えていますが、文章の構成や言い回し等は LLM に指示したうえで任せています。
詳細記事: 【実験記事】 認知負荷の小さい記事を作りたかった with LLM

ユニバーサルデザインの7原則を教材や設計指針として使っていると、原則6「少ない身体的負担」だけが妙に即物的に見えてくる。なぜ身体だけが原則として独立していて、精神的な負担はどこで扱われているのか。7原則の生い立ちから、後継の8つのゴールまでたどってみる。

結論

7原則が名指ししている疲労は、身体の疲労だけ。

原則6は、最小限の疲労で快適に使えることを求めている。下位のガイドラインも、姿勢、操作力、反復動作、持続的な努力と、身体の話だけを並べている。認知的な負担は理解しやすさの話に置き換わり、情緒的・社会的な負担はガイドラインに一度顔を出すだけで終わる。この非対称を生んだのは、理念ではない。1997年に集まった専門家の顔ぶれと、当時測れた知見の範囲が、そのまま原則に写り込んでいる。

全体像

表1: 論点と要点
論点 要点
原則6の出自 当時の人間工学の知見を、そのまま1つの原則にした
認知的な負担の扱い 原則3が扱うのは理解しやすさで、疲労ではない
情緒的・社会的な負担の扱い 原則1のガイドラインにひとつあるだけ
後継の8つのゴール 情緒と社会の層は独立させたが、認知的な疲労は名指ししない

1. 人間工学の直輸入としての原則6

原則6は、デザイン哲学から導いた原則というより、当時の人間工学の知見をそのまま持ち込んでいる。

7原則は、ノースカロライナ州立大学で、ロナルド・メイスを中心とするワーキンググループが策定した(1997年)。メンバーには、建築家、プロダクトデザイナー、エンジニア、環境デザイン研究者が並んでいた。認知心理学や精神保健の専門家は、そのなかにいない。

もとをたどると、ADA(Americans with Disabilities Act=障害のあるアメリカ人法)以降のアクセシブルな建築に行き着く。利用者も、まずは物理的な空間のなかを動く身体として思い描いた。原則6のガイドラインは、中立的な姿勢を保てること、操作力が過大でないこと、反復動作を減らすこと、持続的な身体的努力を減らすことを求めている。人間工学の教科書の項目立てと、ほとんど変わらない。

身体的な疲労には、策定の時点ですでに測定手法があった。専門家の顔ぶれに加えて、測る手段がそろっていたことも、原則6を即物的にしている。他の6原則は、抽象度の高い理念を掲げている。原則6だけが浮いて見えるのは、生まれが違うから。

2. 認知に与えられたのは理解だけ

7原則が認知について扱うのは理解しやすさであって、認知的な疲労ではない。

擁護する側の言い分はこうなる。原則3「単純で直感的な利用」は、利用者の経験、知識、言語能力、その時の集中度にかかわらず理解しやすいことを求めている。不必要な複雑さを取り除くことや、読み書きの力の幅に配慮することも、そこに入っている。原則5のガイドラインには、注意を要する作業で無意識の動作を助長しない、というものもある。だから、精神的な負担が抜けているわけではない。

この反論は半分しか効いていない。身体については「疲れさせるな」という原則が、名前を持って独立している。認知については「わかりやすくしろ」しかない。数時間使ったあとに残る認知的な疲労、判断の疲れ、緊張の持続を名指しする場所が、枠組みのなかにない。

3. ガイドライン止まりの情緒的・社会的な負担

認知でも身体でもない情緒的・社会的な負担は、原則の本体ではなく、下位のガイドラインにしか現れない。

たとえば、使うたびに惨めな気持ちになる、周囲の視線が気になる、助けを求めるのに気が引ける、といった負担がある。7原則は、これに原則1のガイドライン「利用者を分離したり、スティグマを与えたりしない」でしか触れていない。

建物の裏手にまわされたスロープや、劇場の「特別席」を思い浮かべるとわかりやすい。物理的には入れても、心理的には失敗している。7原則は、この種の失敗を重く扱う作りになっていない。

4. 情緒の層を足した8つのゴール

7原則の後継にあたる8つのゴール(2012年)は、情緒と社会の層を独立した項目にしている。

8つのゴールは、バッファロー大学のIDEAセンター(Center for Inclusive Design and Environmental Access)で、エドワード・スタインフェルドとジョーダナ・マイゼルが開発した。7原則が見ていた範囲を、社会参加と健康・ウェルネスにまで広げている。開発元も、機能的・社会的・情緒的な次元をすべて含むと明言している。

表2: 8つのゴール
ゴール 内容 層
Body Fit(身体適合) 幅広い体格と能力を受け入れる 身体
Comfort(快適性) 身体機能と知覚の望ましい範囲に要求を収める 身体・知覚
Awareness(知覚) 利用に必要な情報が容易に知覚できる 知覚
Understanding(理解) 操作と利用の方法を直感的で曖昧でないものにする 認知
Wellness(健康) 健康の増進、疾病の回避、危険からの保護 健康
Social Integration(社会的統合) すべての集団を尊厳をもって扱う 社会
Personalization(個別化) 選択と個人の好みの表現の機会を組み込む 情緒
Cultural Appropriateness(文化的適切性) 文化的価値と社会的・環境的な文脈を尊重する 文化

※「層」の欄は筆者が振った。原典にこの区分はない。

身体一辺倒だった部分は、Body FitとComfortに整理された。代わりに、社会・情緒・文化の層が名前を持って立ち上がっている。IDEAセンターは、7原則が西洋の規範にもとづいているという懸念から、文化的適切性を加えたとされている。

ただし、埋まったのは主に情緒と社会の層。認知的な疲労を名指しするゴールは、8つのなかにもない。

反証と補足

  1. 身体的な疲労には策定時点で測定手法があったが、認知的な疲労にはなかった。名指ししなかったのは、専門家の顔ぶれではなく、測れないものを原則にしなかった結果とも読める。 これを受けて、結論と1章で、顔ぶれと並べて測定手法の有無を理由に挙げた。結論の冒頭に置いた事実は、どちらの読みでも変わらない。
  2. 8つのゴールも、認知的な疲労そのものは名指ししていない。Comfortは身体機能と知覚の範囲を、Wellnessは健康の増進と危険からの保護を扱っている。 これを受けて、4章で、後継の枠組みが埋めたのは主に情緒と社会の層だと限定した。
  3. 原則6が想定しているのは建築とプロダクトで、画面のなかのUIではない。デジタル製品に当てはめて「精神的な負担が抜けている」と言うのは、枠組みの外への外挿にあたる。 結論は変えない。この記事は7原則の文言に何があるかを見ていて、デジタル製品に当てはめて評価してはいないから。

これから変わること / 変わらないこと

2020年代に入って、実装の方法は共同設計(co-design)が主流になりつつある。背景には、7原則がチェックリストとして使われがちだった反省もある。利用者を設計の途中に呼べば、原則が名指ししていない負担も当人の口から出てくる。共同設計は、そこに賭けている。

一方で、7原則は策定時の文言のまま改訂されておらず、今も入門教材として最初に配られている。7原則が名指ししている疲労は、身体の疲労だけ。

前提

参考資料

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